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労務管理
2019.08.21インドにおける労務管理の特徴
日系企業がインドにおいて事業を運営するにあたって悩ましいのがインドにおける労務問題です。
インドの労務管理は難しい又は複雑と一般に言われますが、その理由として⑴インドの労働法規が労働者保護の色合いが強いこと、⑵労働法の数が非常に多く、適用される規制の内容を理解することが難しいこと、⑶訴訟社会であり裁判所が労働者寄りであることなどが挙げられます。これら点はインドの労働法の特徴と言うこともできますが、本稿ではそれぞれの特徴について現地で労務問題を取り扱った経験を元に解説したいと思います。
⑴労働者に有利な法規制
インド労働法の多くが、インドが経済自由化に舵を切る1991年以前に成立したものであるため、労働者保護の色合いが強く、労働法の規制が緩やかなシンガポールなどと比較すると、使用者に制約を課す規制が数多く存在します。例えば、労働上保護された労働者を解雇しようとする場合、経済的補償が必要とされることはもとより、事業の種類・規模によっては州政府の承認が必要となる場合があります。従業員一人を解雇するのに政府の承認を取得しなければならないというのは、解雇の要件としては重く、インドにおける解雇を困難ならしめる一つの要因となり得ます。日本の労働法も労働者保護に厚いと言えますが、インドは日本と同等またはそれ以上に労働者に有利に設計されており、このことがインドの労務管理を難しくしています。
⑵適用関係が複雑な労働法制
インドの労働法には、(a)連邦法・州法が存在し州毎に規制が異なることがある上に、(b)労働者のカテゴリや(c)事業所の種類や規模によって適用される法律や規制が異なることがあるため、どのような規制が問題となっている事案において適用されるか判断することが難しいという特徴があります。
まず、インド労働法は、憲法上、連邦議会及び州議会の双方に立法権限があるとされています。そのため、インドでは、労働法の分野によって、連邦議会が制定した連邦法のみが存在しこれがインド全土で適用されるケースと、州議会が州ごとに独自の立法を実施しているため州毎に異なる法規制が適用されるケースとがあります。例えば、工場労働者の労働条件について規律するFactories Act, 1948(工場法)は連邦法であり原則としてインド全土にこの法律が適用されますが、これに対してオフィスにおける労働条件などを規律するShops and Establishment Act(店舗施設法)は州法であるため、各州に独自の店舗施設法が存在しています。各州で法規制の内容が異なる場合があるため、州毎の違いに配慮しなければならず、また各州がそれぞれ実施する法改正等をキャッチアップすることも容易でないため、特定の法規制を確認するにしても一手間かかります。
また、インド労働法には、労働者をワークマンとノンワークマンという二つのカテゴリに分け、前者についてのみ厚い労働法上の保護を与えるという特徴があります。例えば、解雇に関して労働者に厚い保護を与えるIndustrial Dispute Act, 1947 (産業紛争法)は、ワークマンについてのみ適用されるものとされております。労働者カテゴリによって、適用される労働法規が異なる場合がある上に、その労働者のカテゴリ判断も容易ではないという実情があるため、インドの労働法の適用関係の判断は専門家でも難しい場合があります。
さらに、問題となる事業所の種類によって、適用される法律・規制が異なる場合があります。オフィスの労働条件については店舗施設法が適用されますが、工場の勤務条件等については工場法によって規律されます。大規模工場における解雇については、産業紛争法が解雇の要件を加重するなど、従業員が勤務する場所の性質・規模によって規制内容が変わる場合もあります。
このように、インドの個別労働法の適用関係について正確に把握するためにはある程度の知識と経験が不可欠ですが、このような素養を持つ従業員を見つけることは容易ではありません。
(3) 訴訟社会かつ労働者寄りの裁判所
インドは日本と比較すると訴訟社会であり、労使関係についても例外ではありません。退職に関する協議が円満に終わり笑顔で退職したインド人が翌週には裁判を提起するなどして日本人駐在員を困惑させるケースも珍しくなく、日本人からすると裁判に発展するとは到底想像もつかない事案が裁判に発展することがしばしばあります。
また、インドの裁判は解決までに非常に時間がかかるため(労務裁判だと3〜5年程度)、一度裁判に発展するとマネジメントが割かなければならない労力は重く、インドにおける弁護士費用もASEAN諸国と比較しても安くないため、会社にかかる時間・コストの負担は軽くないといえます。
しかも、前述の通りインド労働法それ自体が労働者保護に厚い上に、インドの労働審判所も労働者寄りの判断を下しがちなため、使用者側が不利な立場に立たされる場合が多いといえます。
以上なぜインドの労務が難しいと言われるのか、インド労働法等の観点から解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。
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