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労務管理
2021.03.16インド労働法改革に関する駐在員の留意事項
2020年に労働法改革が実施され、29の法律が4つのLabour Codeに統合されるという抜本的な労働法の統廃合・改正がなされました。本改革が対象とする労務分野は幅広く、実務に与える影響は非常に大きいと考えられますが、本稿ではその中でも駐在員が抑えるべきポイントを3つの点に絞り解説します。
【ポイント1:何が変わって、何が変わらないのか把握する】
本労働法改革は、29の法律が(1)The Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020 (OSH Code)、(2) The Industrial Relations Code, 2020 、(3) The Code on Social Security, 2020 、(4) The Code on Wage, 2019という4つのLabour Codeに統合されるという非常に広範なものであり、日系企業が直面する労務問題はほぼ全てこの4つのLabour Codeで規律されると言っても差し支えありません。しかし、統合によってその内容が変わる部分もあれば、変わらない分野もあります。駐在員としては変わる部分がどこなのか、変わるとして性急に対応する必要があるのかという点を理解する必要があります。
4つのLabour Codeのうち、特に留意が必要なのが、使用者の義務・責任を加重する形で変更されたOSH Codeになります。OSH Codeは主に(a)使用者が果たすべき事業所の安全・衛生維持義務および(b)労働条件に関する事項をカバーする法令となりますが、使用者の義務を拡大するとともに、従前の法規制の改正点も少なくないため、まずはOSH Codeがカバーする分野の変更点について把握することが推奨されます。
【ポイント2:OSH Codeの安全・衛生維持義務】
OSH Codeでは、使用者の安全・衛生維持義務が新たに導入されており、日系企業の負担が増すものと予想されます。安全・衛生維持義務の内容は、会社の規模によって異なるため、各社毎にどのような対応が求められているのか確認する必要があります。
OSH Codeでは例えば以下のような安全・衛生維持義務が導入されています。
(i)使用者は、従業員が事故や疾病から自由な労働環境を整えなければならない
(ii) 使用者は、従業員に費用負担のない毎年の健康診断を受診させなければならない
(iii)使用者は、中央政府が別途通達により規定する職場に関する安全・衛生基準を遵守しなければならない
(iv)使用者は、中央政府が別途規定する福祉設備を提供し、これを維持する責任があり、提供すべき福祉設備には以下の設備が含まれる(例示)
(a)男性・女性別トイレ(b) 従業員の数が100名以上の施設について食堂(c)就業時間中に利用可能な適当なファーストエイドボックス、(d) 従業員500名以上の工場について、救急処置室、(e)従業員50名以上の工場について男女別休憩室および昼食室、(f)従業員250以上の工場についてWelfare Officerの選任等
(v)使用者は、職場で疾病、死亡、身体負傷が発生した場合、関連当局に通知しなければならない
なお、安全・衛生維持義務の内容は規則によって規定される部分があるものの、2021年3月時点では規則は未施行であるため、規則の制定をまってその義務の内容を確認する必要があります。
【ポイント3:請負労働の改正】
請負労働者に関して規律していたThe Contract Labour (Regulation and Abolition) Act,1970はOSH Codeに統合されました。そのため、請負労働に関しては今後OSH Codeによる規律を受けることとなりましたが、請負労働に関する分野は変更が多いため、請負労働者を利用している会社はその変更点に注意を払う必要があります。
特に重要なのが、請負労働者によるコア・アクティビティ従事の原則禁止です。具体的には以下のように改正されました。
請負労働者をコア・アクティビティに従事させることは、以下の例外を除き、原則として禁止される
(a) アクティビティが請負労働者を通じて行われることが一般的である場合
(b) 常勤の従業員が営業時間の大半の活動として求められない場合
(c) コア・アクティビティの業務量が急激に増加し、特定の期間中にこれを遂行する必要がある場合
禁止されるコア・アクティビティが何を指すのかはOSH Codeの条項からは必ずしも判然としませんが、OSH Code上にコア・アクティビティの範囲について助言するAuthorityの選任に関する規定が存在するため、今後は当該Authority及びOSH Codeの運用を通じて何がコア・アクティビティに該当するのかという点が判断されていくことになると予想されます。
なお、請負労働について規律するChapter XI Part 1は、50名以上の請負労働者を使用する施設についてのみ適用されます。そのため、上記請負労働者のコア・アクティビティ規制は請負労働者数が少ない会社には適用されません。
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