複雑なインドの法律問題について、インド在住弁護士が解説します。

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労務管理
2021.03.09
インド労働法改革の概要

インドでは、長年にわたり労働法の改革が推し進められていましたが、2020年9月に労働法改革の核となる既存の労働法を統合・改正するLabour Codeが成立し、労働法改革について大きな区切りがつきました。本稿では労働法改革の概略について解説します。

1. 改革の背景

インドの労働法は、中央政府が制定する連邦法だけで50以上、州が規定する州法を含めると数えきれないほどの関連法規が存在するため、どの労働法がその問題に適用されるのか把握すること難しいという問題が存在しており、このことが労務問題の取り扱いを難しくしていました。インド政府もこの問題を認識しており、長年にわたって労働法改革を推進していましたが、2020年9月に、29の法律が以下の4つのLabour Codeに統廃合されました(なお、そのうちの一つは2019年8月に成立)。
(1)The Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020 (OSH Code)
(2)The Industrial Relations Code, 2020(IR Code)
(3)The Code on Social Security, 2020(SS Code)
(4)The Code on Wage, 2019 (Wage Code)

2. 各Labour Codeの特徴

各Labour Codeの特徴は以下の通りです。

(1)OSH Code

OSH Codeは、職場の労働条件に関連する13の労働法を統廃合する法律であり、主に、(a)使用者が果たすべき事業所の安全・衛生維持義務および(b)労働条件に関する事項が規定されています。使用者の義務を加重したり、これまでとは異なる制度枠組みを導入するなど従来の労働法制と比較して変化の多い法律となっています。

使用者の責任を新たに追加し、また、これまでの法制度と異なる枠組みを採用するなど、他のLabour Codeと比較して改正点の多い法律となっています。そのため、駐在員としては本法施行による対応事項が多岐にわたることとなるため、留意する必要があります。なお、2021 年3月現在未施行の状況にあります。

(2) IR Code

IR Codeは、3つの労使間の権利義務を調整する労働法を統廃合する法律であり、主に、(a)労働組合、(b)解雇を含む産業紛争および(c)産業施設に適用される就業規則に関する事項が規定されています。

労働紛争に関する事項を規律するなど法領域としては非常に重要な分野をカバーしますが、従前の実務から大きく乖離する改正は限定的であり、また、使用者にとって有利な改正が多いため、直ちに講ずべき措置などは限定的です。なお、2021 年3月現在未施行の状況にあります。

(3)SS Code

SS Codeは9つの社会福祉・労働者の権利に関する法律を統廃合する法律であり、(a)EPFやESIといった社会福祉に関する事項や(b)法定退職金や産休休暇給付など労働者の権利に関する事項が規定されています。

2021 年3月現在未施行の状況にあります。

(4) Wage Code

Wage Codeは、4つの賃金に関する労働法を統廃合する法律であり、主に賃金の支払いに関するルールが規定されています。

Wage Codeは2019年8月に成立施行していますが、当該法令の成立により実務に与える影響は限定的でした。

OSH Code、IR Code及びSS Codeは、2021年3月現在未施行の状況にあります。2021年4月中旬頃に施行されるとも言われていますが、反対勢力も根強く、定かではありません。いずれの法律も日系企業にとって重大な影響があり得るため、何が変わって何が変わらないのかという点を施行までに正確に把握することが重要となります。


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