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労務管理
2020.12.16COVID-19影響下における解雇に伴う逮捕リスクコントロール
COVID-19の影響を受け、インドにおいても転職が容易でない状況が続いているため、解雇を実施する際の従業員側の抵抗が強まりを見せており、例えば、解雇の際に、駐在員を逮捕リスクに曝すことをほのめかすことで、従業員がより有利な条件を引き出そうと試みるケースが散見されるようになっております。本稿では、このような解雇に伴う逮捕リスクとその対応方法について解説します。
1. インドにおける解雇に際する逮捕リスク
インドにおいては、COVID-19の影響を受け、解雇に際して従業員が警察による逮捕をほのめかすケースが増えており、具体的には、法外な補償金を支払わなければ、警察に対して虚偽のセクハラの申し立てを実施し、あるいは過去の贈収賄のリークすることで駐在員を警察に逮捕させるなどと解雇対象従業員から脅されるといった相談が増えております。
大半のケースでは、根も葉もない言いがかりに近いものとなっていますが、例えそうであっても、駐在員はこのような脅しを受けた場合ことさら慎重に当該事案を取り扱う必要があります。
というのも、日本と比較するとインドでは裁判所の令状無くして警察の裁量において逮捕が認められるケースが幅広く認められており、セクハラの事案であっても警察の独断で日本人駐在員が逮捕されるおそれがあるからです。インドでは、犯罪の類型が、令状無しで逮捕が認められるCognisable offence、裁判所の令状が逮捕に必要なNon-cognisable offenceの二つに分類することが可能ですが、セクハラや贈収賄といった従業員が脅しの際に言及する犯罪は通常Cognisable offenceに該当します。
特に、他国と比較してインドの警察は信頼性において著しく欠けるところがあり、警察が個人的人間関係や裏金などで簡単に動いてしまう可能性が否定できません。そのため、全くのデタラメであっても逮捕されるリスクを完全に払拭することができず、さらに、セクハラの申し立ての事案については、最高裁の判例によって警察に迅速な調査の開始が義務付けられていることも相まって、荒唐無稽なセクハラの主張だからと脅しを無視してしまうと、日を空けずに警察が逮捕のために乗り込んでくる危険が現実的なリスクとして存在しているのです。
ただでさえ衛生面で不安のあるインド留置施設に、このCOVID-19の流行下に留め置かれるとうことは、駐在員の生命を脅かしかねない重大なリスクといえるため、理由のない脅しであっても慎重に対処する必要があると心掛ける必要があります。
2. 脅しを受けた場合の対処方法
それでは、実際に警察に逮捕させると脅しを受けた場合、どのように対処することが望ましいのでしょうか。しばしば問題となるセクハラの事案を例にとり解説します。
(1) FIR登録及び被害届提出の確認
女性従業員を解雇しようとする場合に、これを不服と考えた当該従業員がありもしないセクハラ被害申告を行い、警察に駐在員を逮捕させると脅されるケースが散見されます。この場合、最も重要となるのが、セクハラが事実であったか否かではなく、(a)実際に被害届(Compliant)が提出されたか否か、(b)その申告がFirst Information Report(FIR)として登録されたか否かという事実を確認する点になります。
FIRとは警察が内部的に作成する被疑事実に関する初期的な書面的記録となっています。さらに、セクハラ事案ではFIRが登録されることによって、警察が裁判所の令状なしに逮捕を行うことができるようになるため、FIRの登録によって駐在員が逮捕されるリスクが具体的なものとなります。また、最高裁の判例上、セクハラの被害届に関しては、早急にFIRとして登録することが警察の義務とされているため、セクハラ被害届の提出により近い将来FIRが登録され、ひいては駐在員の逮捕リスクが具体的なものとなることが確実となります。
このように、FIRの登録によって具体的に駐在員の逮捕リスクが発生することから、FIRの登録前後によって対応策が異なることとなります。そのため、FIRの登録はもとより、これに先立つ被害届の提出の事実をいち早く認識することが何よりも重要ですが、被害届は公開情報ではないため、これを日系企業が自力で確認することは容易ではありません。警察とネットワークを有する刑事弁護士であれば、被害届に関する情報を取得することが可能となっているため、逮捕させるという脅しをうけた場合、早急に刑事案件の実績が豊富な弁護士に相談することが必要となります。
(2) 被害届提出及びFIR登録が確認できない場合の処置
FIR登録も被害届提出も確認できない場合、駐在員が逮捕されるリスクは発生していないと言えます。このような場合、被害届を出させる前に和解を行うことが駐在員の逮捕リスク回避の観点からは適当と言えます。前述のとおり駐在員がCOVID-19流行下で逮捕されることのリスクは甚大であり、会社として許容可能なのであれば、和解による解決を図ることが推奨されます。
(3) 被害届提出又はFIR登録が確認できる場合
被害届の提出が確認できる場合、近いうちにFIRが登録されることが確実であり、駐在員の身体の安全をいかに図るかということが最重要課題となります。駐在員の身体の安全を図る手段としては、州内・州外のホテルに滞在させそのホテル施設内からリモート勤務させる、一時帰国させるといった方法がありますが、被害届の内容等具体的事案に応じて、適当な手段を検討する必要があります。
FIRが登録された場合、駐在員の逮捕リスクが具体的なものとなります。身体接触が認められるセクハラ事案の場合、権利保釈が認められないNon-Bailable Offenceという犯罪類型に該当するため、何も措置を講じないと逮捕され留置施設に入れられるリスクがあります(他方、身体接触が認められないセクハラは権利保釈が認められるBailable Offenceに該当するため、手続きをとれば留置施設に入れられることはない。)。Non-Bailable Offenceの事案では、裁判所からAnticipatory Bailという 保釈を取得することで警察による身体拘束を防止することが可能となるため、FIRの登録が認められた場合は直ちに駐在員をホテル等安全な場所に待機させるとともに、Anticipatory Bailの取得手続きを実施する必要があります。従業員が主張するセクハラが虚偽のものであり、十分に会社としてディフェンス可能である場合、Anticipatory Bailの取得により駐在員の安全は一応確保されます。その後は警察の捜査に協力し、いかに潔白であるか説得していくこととなります。
以上のとおり、虚偽のセクハラ申告であっても逮捕されるおそれが十分にあるというのが、インドの現状です。従業員から脅しを受けた場合は、これを荒唐無稽なものと一蹴するのではなく、万が一に備え直ちに刑事事件に通じた弁護士に相談することが強く推奨されます。
以上インドにおける解雇に際する逮捕リスクについて解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。
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