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労務管理
2019.11.30インドにおける採用時の留意点
インドにおける人材採用プロセスは、一般的に、採用エージェントを通じて企業のニーズと合致する候補者と面接し、採用水準に達していると考えられる候補者に採用通知を出すという経過をたどり、概ね日本における採用と同様といえます。しかし、インドと日本では国民性や法律に違いがあるため、注意しなければならない点がいくつか存在します。本稿では、インドにおけるローカルスタッフ採用時に配慮すべき法律上の問題点について解説します。
(1)学歴・経歴詐称を疑い、これに対応する契約条項を設ける
日本人からすると、インド人は、出来ないことは出来ると言うし、経験のないことも経験があるかのように振る舞う傾向があるため、誇張しがちだと感じることが多いかと思います。このこと自体は国民性の違いと割り切る必要があり、面接を通じて候補者の能力・経験をしっかりと吟味・確認する必要があります。
しかし、この国民性の違いとして容易に看過出来ない問題が、学歴・経歴詐称です。インドでは、学歴詐称・経歴詐称が頻繁に行われます。私が見聞きした、日系企業が直面した学歴・経歴詐称の事例だけでも少なくない数にのぼります。ローカルの採用エージェントの中には、学歴・経歴詐称のチェックをサービスの一環として提供しているところもあり、このことはインドにおいて学歴・経歴詐称が珍しいことではないことを物語っています。
では、採用時の学歴・経歴詐称についてどのように対応すべきでしょうか。まず、候補者に学歴・経歴の裏付ける書類を提出させ、不自然な点がないか確認する必要があります。例えば、インターネット等で容易に大学の卒業証書サンプルが確認できるにも関わらず、これを参照することなく大学の卒業証書を偽造し提出するなど、インドの学歴・経歴詐称はお粗末なケースが大半を占めるため、採用側の簡易なチェックで偽造・詐称が露呈することがあります。校舎の所在や学科名について正確に答えられないこともあるため、面談の際に大学や前職の具体的な事項について確認することも有効です。
また、学歴・経歴詐称が判明した場合の対応策を雇用契約書等に盛り込むことも効果的です。詐称が判明した場合に即時解雇が可能なことや、損害賠償の範囲、会社がとりうる措置などを雇用契約書に明記することで、万が一学歴・経歴詐称が判明した場合に備えるとともに、少なからず学歴・経歴詐称を抑止する効果を期待することができます。
(2) 法律の規定する一定事項の通知
インドでは労働者を採用する際に、使用者から労働者に一定の事項を通知することが法律上求められることがあります。そのため、インド人労働者を採用するに際してはこれらの通知義務を遵守する必要があります。
まず、日本では、労働基準法15条によって、労働契約締結の際に賃金や労働期間といった所定の事項を書面で明示することが使用者の義務として規定されていますが、インドにおいても同種の規制が存在します。州法であるShops and Establishment Act (店舗施設法)はオフィス労働者の就業条件等について定める法律となっていますが、例えば、The Delhi Shops and Establishments Act,1954(デリー店舗施設法)第34条は、使用者は、労働者に対して、(a)使用者の名前(b)施設の名称と住所(c)労働者の名前、労働者の父親の名前、労働者の年齢(d)労働時間(e)辞令交付日が記載された辞令(letter of appointment)を交付しなければならないと規定しています。判例上、当該義務違反は不当労働行為を構成するとされているため、使用者は当該義務を遵守しなければなりません。
また、インドにおける出産休暇について規定するThe Maternity Benefit Act 1961(出産手当法)第11A条2項は、使用者は、女性従業員に対して、採用時に書面または電子的方法にて、出産手当法上利用可能な出産手当について通知しなければならないと規定しています。同法は事業所の労働者が10名を超える場合に適用される法律となっているため、事業所の労働者が10名を超え、かつ、女性従業員を採用する際には通知義務が発生することになります。なお、上記の通知義務は、2017年にMaternity Benefit Amendment Act, 2017 (出産手当法改正法)の施行により導入された義務となっています。当該通知義務違反の罰則について法律上の規定は存在せず、また、2017年に導入された比較的新しい規制であるため、その違反の効果について言及する判例も存在しませんが、店舗施設法の場合と同様に通知義務違反が不当労働行為を構成するとされる可能性が高いため、やはり通知義務を遵守する必要があるといえます。
以上インドにおける採用時の法律上の留意点について解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。
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