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労務管理
2020.03.10インドにおける残業代
日本では、休日に働いた場合や法定労働時間を超えて就業した場合、休日手当や残業代が支払われますが、インドでも所定の就業時間を超えて勤務した場合、使用者に残業代支払い義務が発生します。本稿ではインドにおける残業代の支払い実務について解説します。
1. インドにおける残業代の取り扱い
日本では、近年、未払い残業代を争う訴訟が大企業、中小企業問わず一般的になってきました。しかし、インドでは、残業代の未払いが訴訟にまで発展するケースはそこまで多くありません。
この理由をインド人弁護士に聞いたところ、そもそも日本と比較して残業自体が一般的でないこと、インド人はCTC(Cost of Company:会社が一年間に負担する社会保障を給与総額で残業代はこれに含まれない)が一番の関心でありCTCに影響を与えない残業代の関心度が低いこと、転職が一般的なインドにおいて残業代に関する訴訟を提起すると悪評が立ち転職が難しくなることなどを理由として挙げていました。
日本と比較して紛争に発展し難いとは言え、争いになるケースがないわけではないですし、後述の通り残業代のレートは通常賃金の2倍と高額になっているため、使用者としては残業の管理を適切に実施する必要があります。特に工場においては、上限労働時間を超えて残業をさせた場合、当局が厳しい姿勢を見せることが多いため、残業管理を慎重に行う必要があります。
2. インドにおける残業代の法規制
インドでは残業を規律する法律は就業場所によって異なります。オフィスについては州法である店舗施設法(Shops and Establishment Act)が、工場については連邦法である工場法(Factories Act, 1948)が、それぞれ残業代のルールを定めています。
州法ある店舗施設法はもちろん、工場法についても州の規則によって残業代の規律を修正する場合があるため、残業代のルールは州毎・就業場所の性質毎によって異なります。その意味で管理が面倒な分野ということができます。
例えば、日系企業が多くの拠点を有するハリヤナ州に適用されるPunjab Shops and Commercial Establishments Act, 1958においては、原則として週48時間を超える労働は許されませんが、(A)例外的にexceptional pressureがある場合には、これを超える労働が許され、(B)その場合であっても1四半期あたりの残業時間が50時間を超えることは許されず、また、(C)使用者は労働者に対して残業1時間あたり通常賃金(normal wages)の2倍のレートの残業代を支払わなければならないと規定されています。
州・就業施設の性質に関わらず、概ね(a)どのような場合に残業が許されるか、(b)その場合の上限はどの程度か、(c)残業代のレートとして幾ら払わなければならないかという形で残業代の法規制は規律されています。
(a)(b)について、日本においては残業を行うためにはそもそも労使間の合意である三六協定を届け出なければいけませんが、インドではこのような労使間合意は求められないことが一般的です。しかしルールが州毎によって大きく異なり、例えば、グジャラート州の工場法規則では、当局の事前承認無くして残業時間としての1四半期あたり50時間を超えて使用者が労働者を働かせることは許されず、事前承認を得た場合であっても、労働時間として1日12時間、週60時間を超えることは許されず、また、残業時間として1四半期あたり75時間を超えて労働者を働かせることは許されないと規定します。工場の残業代上限規制は厳重に運用されているため、例えばグジャラート州であれば75時間を超えて労働させることは極力差し控えることが推奨されます。
(c)については、通常の給与レートの2倍と設定されていることが通常です。日本においては、通常の残業、深夜や休日の場合など、場面毎にレートが異なりますが、インドの場合は一律のレートが適用されます。
なお、日本では管理職に該当する場合、残業代の支払いは不要とされています。インドでは、管理職に類似する概念としてNon-workmanというものがありますが、店舗施設法はWorkman、Non-workman問わず適用されること、店舗施設法上、employeeに残業が発生するとされていることから、日本と比較して広い範囲の労働者に残業代支払い義務が発生することとなります。
3. 雇用契約書及び就業規則における規定上の留意点
前述の通り、一般的にインドの残業代のレートは通常給与レートの2倍と高めのレートが設定されています。そのため、残業代の規定を雇用契約書や就業規則で整備する場合、使用者の指示があった場合や承認を得た場合に限り残業を行うことが可能とするなど、使用者側のコントロールが及ぶ形で規定をドラフトすることが推奨されます。
以上インドにおける残業代規制について解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。
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