複雑なインドの法律問題について、インド在住弁護士が解説します。

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労務管理
2020.03.15
インドにおけるセクハラ防止法規制

(1) インドにおけるセクシャル・ハラスメント防止の法規制

インドのセクハラ防止法規制は、THE SEXUAL HARASSMENT OF WOMEN AT WORKPLACE (PREVENTION, PROHIBITION AND REDRESSAL) ACT, 2013 (以下「セクハラ防止法」と言います。)というセクハラの防止を目的とした法律によって規律されています。日本と比較して先進的な内容となっており、また、そのコンプライアンス負担も軽くないため、日系企業がインドにおいて拠点を有する場合、同法の規制内容の概略を把握することが重要となります。本稿では、インドにおけるセクハラ防止対応の概要について解説します。

(2) インドにおけるセクハラの範囲と保護対象

インドでは、2013年にセクハラ防止法が成立しました。この法律は、1997年にインド最高裁判所より判示されたセクハラ防止に関するガイドラインを踏まえたものとなっています。

まず、セクハラ防止法では、どのような行為がセクハラとして取り扱われるのでしょうか。セクハラ防止法2条(n)がこの点について規定しており、直接的な接触や性的な要求、性的な発言や、ポルノグラフィの提示といった明確にセクハラに該当する行為はもとより、その他不快な物理的、口頭、または非口頭の性的な振る舞い(any other unwelcome physical, verbal or non-verbal conduct of sexual nature)がセクシャル・ハラスメントに該当するとしています。日本と同様に、相手が不快に感じれば、セクシャル・ハラスメントに該当する可能性があるということになります。

また、セクハラ防止法は、「女性」に対するセクハラの防止を目的であることが明記されており、女性に対するセクハラのみが同法の保護の対象になります。保護の対象となる女性の範囲は従業員に限定されず、職場で発生したセクハラであれば取引先等外部の女性も保護の対象になります。

(3) セクハラ防止法上の使用者の義務

マネジメント側が特に把握する必要がある事項が、セクハラ防止法が規定する使用者の義務的事項になります。主要な義務は、以下のとおりです。

(a)10人以上の従業員を雇用する場合、使用者は社内苦情委員会を設置しなければならない。

(b)職場の目立つ場所に、セクハラ行為の刑事責任および社内苦情委員会設置の命令を掲示すること。

(c)従業員に対する定期的なワークショップおよび啓蒙プログラムの開催、および社内苦情委員会メンバーに対する(d)オリエンテーションの実施。

(e)セクハラ防止のための内部ポリシーを作成し、広く普及させること。

(f)社内苦情委員会等に対して苦情対応および聴聞実施に必要な設備を提供すること。

(g)苦情被申立者および目撃者の社内苦情委員会への出席に協力すること。

(h)被害女性が刑事告訴する場合これに協力すること。

(i)セクハラが職場で行われ、犯人が従業員でない場合、被害女性が望むのであれば犯人を告訴すること。

(j)セクハラ行為を就業規則上非違行為として取り扱い、これを処分すること。

(k)年次報告書を地域担当者に提出すること。

(l)セクハラ防止法における、社内苦情処理委員会設置義務のコンプライアンス状況を取締役会報告書の報告事項とすること。

(4) 社内苦情委員会の設置

使用者の義務の中で、特に重要な義務が、発生したセクシャル・ハラスメントの苦情を受け付けその問題を処理する、社内苦情委員会の設置が挙げられます。

 この社内苦情委員会の構成については、少なくとも委員の半数は女性でなければならないなど法律上一定の条件が付されていますが、社外からセクシャル・ハラスメントの問題に精通するものを委員として選任することが要求されており、その設置の負担は必ずしも軽くありません。

 そのコンプライアンス負担が軽くないにも関わらず、10名以上の従業員がいる場合には例外なく社内苦情委員会の設置が義務付けられています。この「従業員」の定義は幅広く、有期雇用労働者や間接雇用労働者、さらには報酬が発生しない者についても10名のカウントに含まれるとされています。

 女性社員がいない場合でも社内苦情委員会を設置しなければならないのかという質問をよく受けますが、セクハラ防止法には女性従業員がいない場合に社内苦情委員会の設置を免除する規定は存在しません。これは、セクハラ防止法が、社内従業員が被害者となるセクハラのみならず、取引先等外部の従業員が被害者となるセクハラも保護対象としていることが理由になっているものと考えられます。

 なお、社内苦情委員会設置のコンプライアンス状況は必ずしも芳しくありませんでしたが、これを踏まえ、2018年にはセクハラ防止法における社内苦情委員会設置義務のコンプライアンス状況を取締役会報告書の報告事項に加えられました。このように、インド政府は社内苦情委員会の設置を促進し、また、その違反を厳しく取り締まる姿勢を見せています。違反形態によっては、事業上必要なライセンスが取り消される可能性があるなど、罰則も軽くないため、未設置の会社は社内苦情委員会を設置することが強く推奨されます。

以上インドにおけるインドにおける採用時の法律上の留意点について解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。

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