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労務管理
2020.06.25COVID-19流行下における労務コスト削減(2)
COVID-19流行下における労務コスト削減(1)に引き続き、COVID-19下における労務コスト削減方法について解説します。
(2)レイオフ/Lay-off
レイオフとは、使用者が労働機会を提供できない場合に一時的に労働者との雇用関係を停止するものであり、レイオフ期間中に使用者と労働者の雇用関係は解消されません。そのため、レイオフ中も使用者には賃金支払義務があり、基本給(basic salary)と物価調整手当(dearness allowance)の50%を支払う義務を負います。
レイオフを行う場合、産業紛争法や雇用契約書/就業規則が規定するレイオフの手続きを履践しなければなりません。産業紛争法上、レイオフは産業施設(Industrial Establishment)のみが実施主体とされるほか、判例上そもそも雇用契約書/就業規則において使用者にレイオフを行う権利が認められていない場合には使用者はレイオフを実施できないとされるなど様々な条件がある点に留意する必要があります。
(3)自主退職スキーム/Voluntary Retirement Scheme
インドでは、上乗せした退職金等の手当と引き換えに自主退職を求める場合、自主退職スキーム(Voluntary Retirement Scheme)という制度が実務上用いられています。
日本における早期退職制度と類似するものであり、基本的なコンセプトに大きな差異はありません。自主退職スキームの最大のメリットは、法律上は自主退職と取り扱われるため、労働者が事後的にこれを争うことが困難であり、紛争に発展する可能性が低い点にあります。他方、退職金の上乗せを実施する必要があるため、使用者は多額のキャッシュアウトを強いられることとなります。
自主退職スキームを設計する際には、可能な限り従業員の任意性をしめす形で書類をドラフトすることや、熟慮期間を設定することなどによって、事後的に争う余地が少なくなるよう配慮する必要があります。自主退職スキームが争われる場合、労働者は多くのケースで、自主退職スキームの受諾が任意でなく、強制で行われたという主張を行います。いかに任意性が保たれる形でスキームを設計するかという点がポイントとなります。
また、提案する上乗せ退職金等の設定が重要になります。インドでは従業員を普通解雇する場合、法定退職金(Gratuity)および解雇補償金を支払う必要があり、その支払額を勘案した上で、上乗せ退職金額を決定するのが一般的です。しかし、両者は勤続年数と支払い給与額に紐づくため、労働者の勤続年数が平均して長い会社についてはその負担が軽くないため、提案する上乗せ退職金額の判断が悩ましいケースも少なくありません。
(4) 給与減額/Pay Cut
給与の減額はインド経済不況時において一般的な雇用コストカット手段となっています。解雇や自主退職スキームは、その実施に際して多額のキャッシュアウトが避けられませんが、給与減額の場合このような金銭支出を伴わない点に大きなメリットがあります。また、労働者を解雇する必要せずに守るとう側面もあるため、労働者側からの見え方も解雇や自主退職と比較して良いと言えます。実際に、前述のMHA命令にも関わらず、少なくない企業がロックダウン期間中に給与減額を敢行したことが報道されており、多くの企業が給与の減額を検討していることが伺えます。
給与減額は、産業紛争法9A条の規定に従い影響を受ける労働者に対する21日前の通知によって実施できるとされていますが、従業員準備基金及び雑則法(Employees’ Provident Funds and Miscellaneous Provision Act, 1952)により原則として基本給の減額が禁止されている関係上、基本給を減額することはできません。なお、労働者に対する通知によって雇用契約の条件の変更が可能だとしても、使用者が一方的に労働者の給与を引き下げることは、労働者の反発を招き紛争に発展するおそれが高いため、労働者の合意のもと行われることが推奨されます。
COVID-19の流行によりインド経済が深刻な打撃を受けていることは周知の事実であり、給与減額は比較的受け入れられやすい手段といえますが、あくまで労働者の理解を得た上で実施することが推奨されるため、いかに従業員に受け入れられやすい形で提案するかという点が重要なポイントになります。例えば、COVID-19の影響で売り上げに影響が出ているがこれは一時的なものと考えられ、売上が一定の水準に戻った場合には給与額を従前の水準に戻すことを約束する形などで提案すれば、労働者の理解は得られやすいでしょう。なお、例え従業員の合意を得た上で給与の減額をしたとしても、これが差別的に行われた場合には別途違法と判断される可能性があります。給与減額を実施するには、あくまで差別的なものと捉えられないよう、一律に労働者に適用される形で行うか、明確かつ公平なルールのもと給与減額の提案を行うことが推奨されます。なお、一般的な減額幅は10%から30%となっています。
(5) 無給休暇/Leave without Pay
上記の他、労働者に無給休暇を取得させることも雇用コストカット手段となり得ます。COVID-19の影響で在宅勤務形態がインドにおいても広く採用されるに至っていますが、中には在宅勤務でできる仕事が限定される労働者もいます。例えば、工場勤務のワーカーが在宅で出来る仕事は極めて限定されるでしょう。このような、在宅が余儀ないものの行うべき仕事がない従業員の在宅期間を無給休暇扱いとすることで雇用コストを削減することなどが可能です。
しかし、無給休暇を労働者に取得させるためには、労働者の合意が必要であり、使用者は一方的に労働者に対して無給休暇を取得させることはできないと考えられています。Birendra Kumar Sinha v. State of Bihar という裁判例では、休暇の取得には休暇を与える使用者と、休暇の申請または承認する労働者の存在が不可欠と判示されています。給与減額の場合と同様に、無給休暇の取得が事業継続のために不可欠であることを説明した上で、労働者から無給休暇の取得に関する合意を取得する必要があります。
以上の通り、インドで採用可能なCOVID-19流行下における労働コストカット手段は複数存在します。自社に置かれている状況や各手段のメリット・デメリットを考慮した上で、適当な手段を選択する必要がありますが、いずれの手段を選択するにしてもCOVID-19の流行という非常事態においては労働者の理解が得られるよう努めることが、穏当な雇用コストカット実現のために重要なものと考えられます。
以上インドにおける雇用契約書及び就業規則の基本な留意事項について解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。
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