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2020.09.12インドにおける消費者保護法の改正
インドにおける消費者保護は、これまで1986年に成立したConsumer Protection Act, 1986(「旧消費者保護法」又は「旧法」)によって図られていましたが、インド消費者省の2020年7月15日付け通達および7月24日付けにより、新法であるThe Consumer Protection Act, 2019 (「新消費者保護法」又は「新法」)が発効しました。
新消費者保護法では、これまでインドでは独立した制度として存在していなかった製造物責任について明記されているため、新法の発効の日系企業への影響は小さくありませんが、本稿では、主に新消費者保護制度の概略について解説します。
1 新消費者保護法の概要
日本の消費者保護法が実体法的側面に重きが置かれているのに対して、インドの消費者保護法は、消費者問題に関する特別な紛争解決手続きを規定することで消費者の保護を図っています。インドでは通常認められていない懲罰的賠償や消費者のクラスアクションといった企業責任を加重させる制度を導入している点に特徴があります。
インドにおける消費者問題は、時に企業に対して甚大な損失を及ぼすため、軽視することはできません。代表的な事例として、スイス食品大手のネスレのケースが挙げられます。2015年に、インド食品安全基準局は、ネスレが販売する、インドの国民的インスタントヌードルであるMaggiに規定量を超える鉛が含有されているとして、その販売を差止めするとともに、消費者保護法に基づき、約64億ルピーに及ぶ補償金を求めるクラスアクションを提起し、インドでビジネスを行う企業に衝撃を与えました。
以下、新法上、消費者保護制度によって、誰が、どのような場合に、どのような主張を行うことができるのか整理します。
2 申立人
新消費者保護法は、同法が規定する手続きを利用できる申立人(complainant )の範囲を、以下のように規定しています(新消費者保護法2条5号)
(i) 消費者:なお、消費者には、対価を支払って商品を購入したものや購入者に使用を許諾された商品のユーザーが含まれますが、再販売目的といった商業目的で商品を購入したものは消費者に含まれません。また、消費者にはサービスのユーザーや、当該ユーザーからサービスの利用を許諾されたものを含みますが、商業目的でサービスを利用するものは消費者から除外されています(新消費者保護法2条7号)
(ii) 法律上登録されている自主消費者組合
(iii) 中央政府又は州政府
(iv) 中央機関
(v) 共通の利益を有する1名以上の消費者
(vi) 死亡した消費者の相続人又は代理人
(vii) 消費者が未成年の場合、その親または法定監護者
このように、消費者保護法は商業目的がある場合を除いて、広く商品購入者又はサービス利用者が消費者に含まれると規定し、申立人適格を認めています。また、共通の利益を有する複数の消費者に対して申立人適格を与えることで、クラスアクションを認めています。
3 審理対象となる苦情
審理対象を正確に理解することは、消費者保護法がどのような問題を消費者紛争と位置付けているかを把握することにつながり、ひいては消費者紛争の予防にも資するといえ、特に重要です。
新消費者保護法は、申立人が書面で行う以下の申立てが、審理対象となる苦情(complaint)に該当すると規定しています(新消費者保護法2条6項)。
(i) トレーダー又はサービスプロバイダーによる不公正取引(unfair trade practice)又は制限的取引(restrictive trade practice)
なお、ここにいう不公正取引として、優良誤認表示といった不当表示又は不実表示、販売する意図のない割引価格の提示、商品コストの上昇を意図した商品の貯蔵、破棄、販売拒絶や模造品の販売等が列挙されています。また、新法では、(a)請求書やキャッシュメモの不交付、(b)一定期間内における返品拒否、欠陥製品の取り下げ拒否、欠陥サービスの停止拒否、返金拒否(c)法令に従わない顧客個人情報の第三者に対する開示が不公正取引に該当するものと改正されています。
「制限的取引」とは消費者に不当なコストや制限を課す価格操作や配送条件の設定等を意図した取引を意味し、配送遅延のコストを消費者に負担させる行為や、特定の商品購入の条件として他の商品の購入を要求する行為が含まれます。
(ii) 商品の欠陥
(iii) サービスの欠陥
(iv) トレーダー又はサービスプロバイダーによる法定価格、商品のパッケージ記載価格又は当事者が合意した価格等を超える代金請求
(v) 法が規定する安全基準に違反し、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品、又はトレーダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対する販売が生命又は安全に危害を及ぼしうる商品
(vi) サービスプロバイダーが通常要求される注意を払えば公衆に対する危険性が予見可能であって、その公衆に対するサービスの提供が公衆の生命又は安全に危害を及ぼしうるサービス
(vii) 製造業者、製品販売者または製品サービス提供者に対する製造物責任の請求
4 地域コミッション等における審理
消費者保護法は、消費者紛争を解決する特別な紛争解決機関として地域コミッション(係争額INR10,000,000以下)、州コミッション(係争額INR10,000,000超 INR100,000,000以下)、ナショナル・コミッション(係争額INR100,000,000超)について規定しています。苦情の申立ては、その申立額等に応じて、地域コミッション、州コミッション又はナショナル・コミッションにて審理されます。
地域コミッションにおいて下された命令に対しては州コミッションに、州フォーラムにおいて下された命令はナショナル・コミッションにそれぞれ上訴可能です。
地域コミッションにおける具体的な手続は以下のとおりです。まず、商品の苦情が問題となっているケースでは、まず地域コミッションは、通常申立てを受理した日から21日以内に申立てられた苦情に正当性があるか否かに関して判断します(消費者保護法36条2項)。正当性があると判断された場合、地域コミッションは、苦情の相手方に対して、苦情が認定された日から21日以内に、正当性があると認定された苦情のコピーを送付すると共に、原則30日以内の当該苦情に対する意見提出を命じなければなりません(新消費者保護法38条2項)。
その後、証拠調べ類似の手続が実施されます。試験所によって実施される鑑定類似の手続が導入されている他、いずれの手続も準司法的な手続となっており、民事訴訟法における証人の召喚や証人尋問手続に関する規定が準用されております(同9項)。地域フォーラムは、申立苦情の相手方からの意見の提出を受けてから、原則として3ヶ月以内(試験所による検査が必要な場合、欠陥等の有無のための検査が必要なため、原則として5ヶ月以内)に苦情に対して判断を下さなければなりません(同7項)。
審理の結果、苦情に理由があると判断された場合、地域コミッション等は、以下の一つ又は複数の命令を下します(新消費者保護法39)。
(a) 試験所によって認定された係争商品に存在する欠陥の除去
(b) 欠陥の存在しない新品の類似商品との交換
(c) 申立人に対する、申立人が支払った代金等の返金
(d) 相手方の過失によって消費者に発生した損失又は傷害に対して地域フォーラムが認定した補償金の支払い(地域コミッションが適切と判断した場合には、懲罰的賠償も認定可能)
(e) 製造物責任に基づく補償の支払い
(f) 問題となっている製品欠陥の除去またはサービス不備の除去
(g) 不公正取引又は制限的取引の停止及びその再発防止
(h) 有害・危険商品の販売の申し出の停止
(i) 有害商品の販売オファーの取り下げ
(j) 有害製品の製造停止又は有害サービスの提供停止
(k)多数の消費者に損失又は傷害が生じているものの、その消費者を容易に特定出来ない場合、地域コミッションが認定した補償金の支払い
(l) 誤解を招く広告を発行した相手方の費用負担において、当該誤解を招く広告の影響を中立化させる正しい広告の発行
(m) 適切な経費の支払い
(n) 誤認広告発行の停止
消費者保護法は比較的短期間で終結する紛争解決手続を規定するとともに、地域コミッションに対して、柔軟な紛争解決手段を与えています。
以上新消費者保護法の概要について解説しました。ご不明点やご関心事項がある場合、お問い合わせページまたは右下に設置されていますチャット相談からお気軽にご連絡ください。
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